海外感染症流行情報

海外医療通信(2024年7月号) 東京医科大学病院 渡航者医療センター

海外感染症流行情報 2024年7月

(1)全世界:COVID-19とインフルエンザの流行状況

COVID-19については、7月に入り欧米諸国や日本で患者数が増加傾向にあり、夏の流行に入ったと見られています(米国CDC 24-7-22、ヨーロッパCDC 24-7-19、厚生労働省 24-7-19)。ウイルスの種類としてはオミクロン株の派生型であるKP.3が世界的に流行しています(WHO corona 24-7-15)。インフルエンザについては、南半球の温帯地域で流行が拡大しており、南米や南アフリカではピークを越えました(WHO influenza 24-7-17)。大洋州(オーストラリアなど)では患者数が増加を続けており、昨年より大きな流行になっています。

(2)アジア:蚊媒介感染症の流行状況

東南アジア各国でデング熱の患者数が増加傾向にあります(WHO西太平洋 24-7-11)。シンガポールでは今年9000人以上の患者が確認され、昨年の倍以上の数になっています。南アジアではスリランカで3万人の患者が確認されており(ProMED 24-7-14)、インドでも南部のカルタナカ州で患者数が9000人になっています(ProMED 24-7-14)。なお、インド中部のマハラシュートラ州のプネなどでは、ジカ熱の患者が今年は32人確認されており、このうち11人が妊婦でした。妊婦がジカ熱に感染すると胎児に小頭症などを起こす可能性があり、影響が懸念されています。

(3)アジア:ベトナムでジフテリア患者発生

ベトナム中部のゲアン省でジフテリア患者が2人発生し、このうちの一人(18歳女性)が死亡しました(ProMED 24-7-10)。ジフテリアは呼吸器や心臓などに重篤な症状を起こす細菌疾患で、三種混合ワクチンの接種により世界的に患者数が減少していました。しかし、新型コロナ流行でワクチン接種が停滞したため、途上国などで再燃しています。ベトナムでも昨年からジフテリア患者が散発しており、同国に長期滞在する場合には、三種混合ワクチンの追加接種を受けておくことを推奨します。

(4)ヨーロッパ:ドイツでダニ媒介脳炎の患者増加

ドイツでは、今年6月までにダニ媒介脳炎の患者が245人発生しました(ProMED 24-7-2)。中部のチューリンゲン州で増加しているとともに、南部のバイエルン州でも60人の患者が確認されています(ヨーロッパCDC 24-6-28)。媒介するマダニの数が、温暖化の影響で増加したためと考えられています。なお、ダニ媒介脳炎ワクチン(ファイザー製)が日本でも今年3月に承認され、近日中に販売される予定です。

(5)北米:米国での鳥インフルエンザH5N1型患者の発生(続報)

米国で鳥インフルエンザH5N1型がウシの間で流行しており、接触したヒトの患者も発生していることを前号で報告しました。その後もウシの間での流行は拡大し、7月初旬にはコロラド州で4人目となるウシからヒトへの感染者が報告されました(米国CDC 24-7-3)。また、7月中旬には同州の家禽農場で流行処理にあたっていた5人の労働者が、H5N1型に感染していることが確認されました(米国CDC 24-7-14)。いずれの感染者も結膜炎など軽微な症状で回復しています。米国CDCは、今のところヒトからヒトに拡大するリスクは低いが、動物間での流行の監視強化が必要との見解を示しています(米国CDC 24-7-19)。

(6)中南米:オロプーシュ熱の流行が拡大

中南米で昆虫に媒介されるオロプーシュ熱の流行が拡大しています(米州保健機関 24-7-19)。患者はブラジル、ボリビア、コロンビア、ペルー、キューバで、今年に入り7600人以上が確認されており、キューバで感染した患者がイタリア、スペインで輸入例としても報告されています(ヨーロッパCDC 24-7-12)。オロプーシュ熱はデング熱に似た症状を起こすウイルス疾患で、ハエの一種であるヌカカに媒介されます。ヌカカは日本にも常在しており、朝や夕方に吸血する習性があります。流行地域に滞在する際は、昆虫忌避剤を塗布するなどして、本症を予防してください。